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ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害活性の検定

(担当:吉田稔)

 がん発症の原因は、がん遺伝子やがん抑制遺伝子の変異、すなわち塩基配列上の変化が蓄積し、細胞増殖、接着、細胞死などの制御が異常になることによると考えられている。しかし、一方で遺伝子の塩基配列の変化を伴わない遺伝子の発現異常、すなわちエピジェネティックな変化も発がんに大きく寄与していることが近年明らかになってきた。その中でクロマチンの活性を調節するヒストンアセチル化は重要な役割を果たすと考えられており、ヒストンアセチル化レベルを調節するヒストンデアセチラーゼ(HDAC)は、抗がん剤の分子標的として大きな注目を集めている。ヒストンのアセチル化はコアヒストンN-末端領域に存在するいくつかのリジン残基のε-アミノ基で起こり、クロマチン構造の調節を通じて転写活性に影響を与えると考えられている。HDACはこのアセチル化リジンを加水分解する酵素で、発がん過程で生ずる遺伝子発現異常の多くに関与することが知られている。HDACは癌以外にも、糖尿病や、神経変性疾患などの疾患にも密接に関与することが最近示されており、異なる HADCサブクラスがそれら疾患に関わることが示唆されている。したがって、HDACを標的とした癌分子治療薬の開発のためには、クラス選択性を有するHDAC阻害剤の開発が重要である。そこで新たなHDAC阻害剤の探索を支援するため、クラスIの代表的なHDACとしてHDAC1、クラスIIの代表的なHDACとしてHDAC6、クラスIIIの代表的なHDACとしてSIRT1の阻害活性の検定を行う。

【方法】

組換えヒトHDAC1(クラスI)、ヒトHDAC6(クラスII)、ヒトSIRT1(クラスIII)を用いてサンプル化合物の酵素阻害活性の有無を検定する。実際の反応は、精製したヒトHDAC1、HDAC6、SIRT1に基質としてアセチル化した蛍光標識ペプチドを加え、37 ℃で30分間反応させる。その後トリプシンを添加し、このとき遊離した蛍光物質(アミノメチルクマリン)を定量することで酵素活性を測定する。阻害活性の陽性対照としてはHDAC1、HDAC6に対してはトリコスタチンA、SIRT1に対してはニコチンアミドを用いる。本検定でヒットした化合物については、相談により細胞レベルでの阻害活性などを解析する用意がある。

【活性の評価】

 検体はまず最終濃度10 μMで検定し、阻害活性の認められたものについては段階希釈系列を作り、50%阻害濃度を求める。
また、阻害活性が認められたものについては本アッセイ系の第2段階の反応であるトリプシンに対する阻害についても確認する。