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抗がん剤のシードとなる分子標的阻害物質の探索と評価(化合物評価)

 本支援活動では、より有効な抗がん剤の候補となる物質を探索しようとする研究者を支援するために、ヒトがん細胞パネルによる評価系(A)を中心に,がんの分子標的と考えられている5つの各活性阻害評価系(B)を用意し,無償で化合物評価をおこないます。

A) がん細胞パネルを用いた新規抗がん剤スクリーニング

(担当:旦 慎吾)

 ヒトがん細胞パネルとは、ヒトがん細胞株39系を用いた薬剤感受性試験によって、新規化合物のがん細胞増殖阻害活性を評価すると同時に、インフォーマティクスによってその化合物の作用メカニズムないし分子標的の予測を行う化合物評価系である。既知の抗がん剤とは異なるユニークな分子標的を持つ化合物を選別する方法として優れており、これを用いて新規抗がん物質のスクリーニング支援を行います。本支援は、(B)で実施する分子標的特異的阻害物質のスクリーニング系と連携し、互いに補完することによって新規化合物の活性を複眼的にとらえ、当該化合物の生物活性についてきわめて質の高い情報を研究者に提供します。

B) 標的分子特異的阻害物質のスクリーニング

 化合物の分子標的阻害活性を以下の1)〜5)によって評価します。これらの分子標的は、現時点でがん治療の標的として有望と見られています。

  1. プロテインキナーゼ(PK)阻害活性の評価(I)(担当:上原 至雅)(II)(担当:深澤 秀輔):PKの異常は増殖、転移などがんの悪性形質亢進に結びつく。多くのPK阻害剤が臨床薬となっているが、PKの多様性からみてあらたなPK 阻害剤の開発は重要である。PKの中から特に重要と考えられるもの(EGFR、PDGFR、IGF-1R、c-Met、ALK、RET、TRAK, FLT-1など)を選定し、これらの組み換えタンパク質または細胞発現系を用いて各PKの阻害剤の開発を支援する。PK阻害活性の見られた化合物については、上記PK群への特異性(PK阻害プロフィル)を明らかにする。
  2. クラス選択的ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤の評価(担当:吉田 稔):発がん過程におけるヒストン修飾などエピジェネティクス変化の重要性が明らかになり、HDAC阻害剤の臨床での有用性が示されている。一方、HDACはクラスI、II、III が知られており、現在その選択的阻害剤が求められていることから、各々の代表的な酵素を用いたクラス選択的阻害剤評価系を用い、クラス選択的HDAC阻害剤の開発を支援する。
  3. アンドロゲン受容体(AR)シグナル伝達阻害活性の評価(担当:清宮 啓之):前立腺がんが急増しているが、その増殖および予後不良再発に関与するARシグナリングの制御は重要である。ARシグナリングを高感度・迅速に評価する系を用いて、その制御化合物の開発を支援する。
  4. 低酸素誘導因子(HIF)制御活性の評価(担当:掛谷 秀昭):がんの低酸素適応を促す転写因子HIFの制御は固形がん治療に有効と考えられる。HIF機能を高感度・迅速に評価する系を用いて、HIFを制御する抗がん剤リード化合物の開発を支援する。
  5. 上皮-間葉転換 (EMT) 制御活性の評価(担当:井本 正哉):がん転移や薬剤耐性の機構にEMTの関与が明らかとなってきたことから、EMTの制御物質は新たな制がん剤として期待される。LoVo細胞をTGF-β刺激することによってEMTが誘導できるので、この系を用い、EMT制御活性を持つ抗がん剤の開発を支援する。

化合物評価をご希望の方は,各評価系の概要と化合物評価の条件をご熟読の上,化合物評価申込を行ってください.無償で化合物評価をおこないます.また,広く化合物の活性評価を希望する研究者は,当支援活動班が構築する寄託化合物ライブラリーに化合物を寄託することができます.寄託化合物ライブラリーに収録された化合物は,将来,前述の(A)および(B)の評価系以外に当班が用意した評価系や,当班が認めた他の研究者の評価系にかけられ,その結果は逐次,化合物を寄託した研究者に報告されます.

 この活動は,平成16年度まで継続した文部科学省がん特定領域研究・総合がん・スクリーニング委員会、および、平成21年度まで継続した同・統合がん・化学療法基盤情報支援班の活動を発展させたものです.